クランベールに行ってきます


 翌朝、結衣は三時のケーキの材料を厨房で確保した後、研究室に入った。
 今日は二十時に同期が起きるので、ローザンはそれに合わせて昼前頃にならないとやって来ない。研究室にはロイドがひとりでいた。

 挨拶を交わした後、結衣は給湯コーナーに向かう。
 時間的に余裕もないので、結衣はロイドの邪魔をしないように、休憩時間以外はなるべく話しかけないようにしていた。
 だが、少し前から気になって仕方のない事が、頭の中で日増しに膨らみ、どうしても訊いてみたくなった。
 お茶の時間には少し早いが、そのためにお茶を淹れる事にした。
 お茶を運んで声をかけると、ロイドが壁の時計を眺めながらやって来た。

「今日は少し早いな」
「うん。ちょっと気になる事があって……」

 二人は机を挟んで、向かい合わせの席に着いた。

「なんだ?」

 ロイドがいつもの激甘茶をすすりながら尋ねる。結衣は身を乗り出して問いかけた。

「あの人捜しマシンって、毎回、王宮内も検索してるの?」

 結衣の仮説で立証されたのは、遺跡に関する事だけだ。他の事は推測の域を出ていない。特に王子の行方については、一番当てにならない。
 これだけ何度も、異世界まで捜しているのに、見つからないのはおかしい。
 以前ロイドは一笑に付したが、王子は王宮内にいるような気がしてならない。

 あの時ロイドは、王宮内は捜索隊が地下の霊廟に至るまで隈無く捜索し、王宮外はロイドのマシンが捜していると言った。
 ロイドのマシンは王宮外しか捜索できないのではないか? もしもその時、王子が地下遺跡にいたのなら、捜索の網から漏れているのだ。
 だがロイドの答えは、結衣の期待を大きく裏切る。

「あの時は確かに検索範囲に限定があったから、王宮外しか捜索していなかったが、今は限定解除されている。全域検索対象だ」
「じゃあ、どうして私のいた場所の座標が記録に残っているの?」
「おまえの座標は、王宮内でも王宮外でもないからだ。転送したのはオレのマシンじゃないし」
「そっか……」

 結衣はガックリ肩を落として、大きくため息をついた。


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