クランベールに行ってきます
ジレットの透き通る青い瞳に見据えられ、とてもごまかしきれないと観念した結衣は深く項垂れた。
「……ごめん、ジレット。あなたを騙すつもりで、王子様のフリをしているわけじゃないの」
「ええ。何か事情がおありなのは、お察しいたしますわ。でも、お名前を教えていただけませんか?」
結衣が顔を上げると、ジレットは静かに微笑んだ。決してイヤミでもなく、自分を騙した結衣を怒っている風でもない。結衣はホッとして名を告げた。
安心したと同時に、不安に駆られる。ジレットはすぐに別人だとわかったと言った。
一度しか会った事のないジレットに、こうもあっさり見破られてしまうという事は、毎日のように顔を合わせている使用人たちにはバレバレだったのではないだろうか。
何もそんな素振りは見られなかったが、影で噂が広まっているのではないかと気が気ではない。なので、ジレットに確認してみた。
「私って、一目でわかるほど王子様と違うの?」
ジレットはにっこり笑うと、愛らしく首を傾げた。
「いいえ。お顔も声も話し方もそっくりですわ。他の方にはわからないと思います」
それを聞いて結衣は一応ホッとした。なにしろ話し方に関しては、少しでも違うと厳しくダメ出しされるほどラクロット氏に特訓を受けたのだ。
「レフォール殿下はご病気なのですか?」
少し不安げな表情でジレットが尋ねた。
「ううん。そうじゃないの。ただ事情があって人前に出られないだけなの。誰にも内緒だから、お願い! あなたも秘密にしておいて」
結衣が拝むように両手を合わせて懇願すると、ジレットはにっこり微笑んだ。
「わかりましたわ。誰にも内緒にしておきます。ラクロット様とヒューパック様はご存じなんですよね?」
「うん。見た目が似てるってだけで、ロイドに身代わりを押しつけられたの。ヒドイと思わない?」
結衣が思わず愚痴ると、ジレットは楽しそうにクスクス笑う。
「でも、ユイはヒューパック様が好きなんでしょ?」
「えぇ?!」
どこがそんな風に見えたのか、断固否定もできないので、正体を見破られた時よりも結衣は動揺した。