クランベールに行ってきます
「何?」
結衣が訝しげに見つめると、ロイドは笑顔のままで、よくわからない事を言う。
「やっぱりおまえ、おもしろい奴だな。予想通りかと思えば、予想外だし、オレのいう事はちっとも聞かないし。おまえほど逆らう奴は他にいないぞ」
「……え……」
結衣は思わず苦笑する。そういえば、ローザンにも強者だと言われた。
「足の傷は大したことなかったらしいな」
「うん」
ロイドは真顔になると、眉間にしわを寄せて結衣を睨んだ。
「余計な事はするなと言っただろう」
「え? 何の事?」
「ラクロットさんから聞いた。おまえ、殿下の行動を探っていたらしいな」
ヤバイ。誘拐犯でなければ、かまわないかと思ったが、ケガをした事で”余計な事”に分類されてしまったらしい。
「でも、今回はたまたま……」
結衣が言い訳をしようとすると、ロイドはそれを遮った。
「たまたまじゃない。あの後、調べに行ってみたら、細工の跡があった」
「え?」
背筋に冷たいものを感じて、結衣は絶句する。ロイドは不愉快そうに続ける。
「オレは地質学には詳しくないが、穴自体はかなり古いものだった。自然に浸食されてできたものかもしれない。だが、おまえの落ちた階段だけ、石が後から嵌め込まれた形跡があった。穴の深さは大したことなかったが、石と一緒に転落したら、下手すりゃ命に関わる」
「それって……」
「殿下が東屋によくお行きになる事は、王宮内では周知の事実だ。誰かが殿下を穴に落とそうとしていた可能性がある」
結衣は黙ってロイドを見つめた。王子を取り巻く環境は思っていた以上に、ヘヴィなもののようだ。
「王宮内の探検はもういい。明日からはなるべくひとりになるな。オレの目の届く場所、研究室にいろ。いいな」
いつものごとく、有無を言わさぬ命令に、今回ばかりは結衣も素直に返事をした。
「わかった」