クランベールに行ってきます


 結衣がケガをした事で、行方不明の王子の身が、危険に晒されている可能性が色濃くなってきた。捜索を任されているロイドはそれで苛立っているのだろう。

 そう考えていると、さらに苛立たせそうな事を、ふと思い出した。黙っているわけにもいかないので、結衣は恐る恐る告白した。

「あの……。ジレットに正体ばれちゃったんだけど……」

 すると、意外にもロイドは平然と受け流した。

「あぁ、それもラクロットさんから聞いた。あの方は大丈夫だろう」

 あまりにあっさりと返されて、結衣は拍子抜けする。

「え? それだけ?」

 結衣が呆けたようにつぶやくと、ロイドは不思議そうに問いかけた。

「何だ?」
「だって、誰にもばれないようにしろって言ってたから、ばれたらお仕置きでもあるのかと……」

 結衣がそう言って苦笑すると、ロイドはニヤリと笑い、手すりから離れ、結衣の方に一歩踏み出した。

「お仕置きを期待してたのか?」
「期待してないから。ないなら、なくていいのよ」

 結衣も手すりを離れて、ロイドが近付いた分だけ後退する。
 なんとか話をはぐらかそうと、頭の中を探り、王子の秘密について話してみた。

「ジレットから聞いたの。王子様の秘密って、目に見えるもので、見たら驚くものなんだって」
「まるで謎々だな。漠然としすぎている。お仕置きを帳消しにできるほどの情報じゃないぞ」

 そう言ってロイドは、素早く腕を掴んで引き寄せ、倒れ込んできた結衣を抱きしめた。

「放して!」

 結衣が抵抗すると、ロイドはさらにきつく抱きしめ、耳元で囁いた。

「放さない。お仕置きだからな。おまえ、オレに触られるのがイヤなんだろう?」
「イヤよ」

(だって、自分だけドキドキするんだもの)

 即答すると、ロイドが耳元でフッと笑った。

「はっきりと言うんだな。じゃあ、イヤな事されたくなかったら、今度こそはオレのいう事を聞けよ。明日からはオレの側にいろ。側にいれば、必ず守ってやるから」

 ロイドは腕の力を少し緩め、顔を上げると結衣を見つめた。
 最後の一言に、心臓を射貫かれたような気がして、結衣は確信した。

(ダメだ。やっぱり好き)

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