クランベールに行ってきます


 クローンの事ですっかり話が脱線してしまったが、結衣は話を本題に戻した。

「で、話を元に戻すけど、王子様が好きなわけじゃないなら、どうして私にキスするの?」

 ロイドは開いたマシンを折りたたみながら、気まずそうにチラリと結衣に視線を送った。そして、折りたたんだマシンをポケットにしまうと、クルリと背を向けて吐き捨てるように言う。

「おまえの唇がそうさせるんだ」
「はぁ?」

 意味がわからない。また、結衣の方がキスをしたいと言っている、とでも言うのだろうか。

「どういう意味よ!」

 結衣がムッとして怒鳴ると、ロイドは背を向けたまま、入口横の工具置き場に向かって歩き始めた。

「そのままの意味だ。おまえの唇はそういう魔性を秘めている」
「……え……」

 思わずキスしたくなる魔性の唇。
 それが本当なら、今まで二十三年間、男に縁のない生活を送ってきた結衣の人生に説明がつかない。
 結衣が絶句して立ち尽くしていると、入口の扉が開いてローザンがやってきた。

「おはようございます」

 挨拶と共に入口横にいるロイドに目を留めると、ローザンは不思議そうに尋ねた。

「あれ? ロイドさん、顔が……」
「黙れ!」

 言い終わる前にロイドにいきなり怒鳴られ、ローザンはのけぞって一歩退く。

「なんで、朝から怒ってるんですか」

 ローザンは扉を閉めて部屋に入ると、今度は結衣に尋ねた。

「何かあったんですか?」
「ううん。別に」

 結衣が苦笑して答えると、ローザンは首を傾げながら、いつもの定位置、コンピュータの方に歩いていった。

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