月と夕焼け
「そう…。断ったのね」

「はい」

「大丈夫?」

「大丈夫じゃ、ないです。やっぱり大好きなんです」


美乃梨さんとは夜にこうして、電話をするくらい仲良くなっていた。


「それでも、おじ様の言う通りにするの?」


美乃梨さんの声が悲しそうに聞こえる。


「恋人になるより、私は遥佳くんの側にいたいんです」

「え?」

「付き合っても、別れろと言われるかもしれない。けど、こうしてただのメイドでいれば大好きな人の側にずっといれるんです」

「佳奈ちゃん…」


側にいたい。
笑顔をずっと見ていたい。
声を聞きたい、一番近くで。

ただのメイドのちょっとしたわがまま。


「私、間違ってますか…?」


これだけは、聞いておきたかった。


「間違ってないわ。とても素敵よ、そういう愛し方だってあるわ」


美乃梨さんの言葉に物凄くホッとした。


「ありがとうございます」

「ねぇ、佳奈ちゃん」

「はい?」

「もしね、遥佳くんと付き合ってたら何がしたい?」
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