雨あがりの空に
前田さんは、俺の隣に座った。


お互いに何も話さない。

何だか気まずい。


「……仙崎先輩には…奥さんも息子さんも居るんですよね?」

前田さんは、沈黙を破ると…静かにそう聞いた。

「…そうだけど…いきなりどうした?」

「…すみません。ちょっと気になっただけです。……奥さんの体調の方は大丈夫なんですか?」

「…あぁ、うん。昨日いきなり倒れてさ。でも今は大丈夫だから。前田さんにも迷惑かけた…」

「そんな!謝らないでください!…大変でしたね。」

「…うん。やっぱさ、俺と拓海には、翠が居ないとダメだなってつくづく思ったよ。拓海も、まだ小さいから母親が居ないと困るな」

「…翠さんって言うんですね……」

「そうだよ」

「…きっと優しい人なんだろうな」

「…何か自分のことみたいで照れるな」

「……ッ…先輩!これできました!!」


前田さんは、俺の言葉を遮るように少し大きな声で言った。

前田さんの行動が、よく分からなかった。

「…あ、ありがとう」

差し出されたネクタイを受け取ろうとすると、前田さんは俺の手を掴んできた。

「…?…前田さん?」

「…あっ!……ごめんなさい。…」

「何か今日、変じゃない?」

「…そ、そうですかね?…じゃあ、私はこれで!!」
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