雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜
「心配ない。ボクには阿修羅がついてる」

「月夜! そなたもはやく……」

 十六夜が伸ばした手を、月夜は両手で握りしめた。

「ごめん、ボクはいけない。でも、ガルナだけは滅ぼさせないから……十六夜の国は絶対に守ってみせるから――」

 二人の手が離れたのを合図に、叉邏朱は大きく羽ばたいた。

「月夜!」

 必死に手を差しのべる十六夜に、月夜も手を伸ばした。
 しかしそれは触れ合うことなく、どんどん遠ざかっていく。
 あっという間に空高く舞い上がった叉邏朱は、夜空に紛れ星になった。

――十六夜。

 星を見届けると、あらためて帝釈天に目を向ける。
 赤い瞳に、迷いはなかった。

「帝釈天……貴女が、はじまりの神を目覚めさせるために私を鍵としたいなら、私の願いを訊いて欲しい!」

「な、月夜殿、なにを……」

「月夜様……」

 狼狽える天照とイシャナを尻目に、月夜は二人の前へ歩を進める。

「……なんじゃと?」

 片眉ををあげて嘲笑めいた帝釈天に向かい、月夜は護り刀の鞘を抜いた。

「もしや、それでわたくしを脅そうとでも考えたか……浅はかな童子よ」

 月夜の口許に微かな笑みが浮かぶ。
 帝釈天は何かに気づいたように、訝しい表情を浮かべた。

「その通りです。貴女がこの国を滅ぼさず、この先も加護をもたらすと約束するなら、私は喜んで貴女に従う――しかし、どうあってもガルナを滅びへ導くつもりなら」

 背後で固唾をのむ二人の気配に、月夜はそのまま動かないでいるよう祈った。

「私はこの場で命を絶ちます」

 月夜の言葉に、案の定天照が駆け寄った。

「はやまってはいけない、月夜殿! それでは帝が――」


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