雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜
 月夜は慌てた。

「だめだ雪! あれは、あの魔物は……」

「あの小僧か。だから邪魔だと云ったんだ。さっさと逃げていればいいものを――」

「え……」

――まさか、わかっていたのか。わかっていてわざと……?

 月夜はドギマギと雪を見上げた。
 自分が思っていた魔物に、人間を気遣う面など有りはしなかったからだ。
 しかしそれが真実だとすぐに思い直す。

「やはり、殺しておくべきだったな」

「だから、駄目だって云ってるだろっ」

 あからさまに面倒くさそうな態度で、彼は顔をしかめた。

――所詮魔物などこんなものだ。

 月夜は無意識に自分の胸を掴んだ。
 深い部分が、鈍い痛みを伴う。

「貴君らしからぬ、控えめな答えじゃな……」

――どこが!

「すべてはミトラの分身のためか、ならば遠慮はいるまい。存分にやりあうがよいぞ!」

 帝釈天の声を合図に、魔物となったイシャナが襲いかかる。
 最初に狙われたのは月夜だった。
 雪の頭上を越え、真っ直ぐこちらに飛びかかってくる。
 不意をつかれ動けずにいた月夜を、鋭い爪が届く寸前、雪が素早くさらう。
 そこから距離をとると、その場に月夜をおいて素早く切り返した。

「雪!」

 なんとかイシャナを助けようと雪を牽制するが、彼は迷いなく攻撃に転じた。

――イシャナは殺させない!

「イシャナ! こっちだ、こちらにこい!」

「なに……!」

 月夜の声に、イシャナはまたもや雪を避けて飛びかかった。
 舌打ちが響く。
 出遅れた雪は、今度はかわさずにその身を盾にするので精一杯だった。
 胸に月夜を隠し、結果晒された背中にイシャナの爪が食い込む。
 容赦なくその肉はえぐられた。


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