雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜
 二人は衝撃で地面にもつれ込んだ。
 だがすぐに立ち上がった雪に抱えられ、続く攻撃をかわす。
 時機がつかめないのか、反撃しないまま逃げ続ける彼に月夜はただ必死にしがみついた。
 動きが速すぎて、振り落とされれば無事ではすみそうにない。
 しかし月夜は、こうしていればイシャナを傷つけさせないようにできるだろうとも考えていた。
 雪もだが、イシャナの動きはとてつもなく機敏で、危うく何度も爪が届きそうになる。
 そのたびに戦慄をおぼえながら、月夜はこの状況を優雅に眺める帝釈天に眉をひそめた。
 こんなことをさせて、いったいどんな意味があるというのだ?
 不意に帝釈天の唇が開いた。

「魔物一匹、そのままの姿で十分であろうに……どうあっても、鍵を離さぬつもりか?」

――そうか。帝釈天はボクから雪を引き離したいんだ。

 顔を見あげると、精悍な表情に浮かぶわずかな動揺が見てとれた。
 これまで見せられてきた、彼の余裕のそれとは違い、月夜はドキリとする。
 もし雪と離れてしまったら、自分はイシャナか帝釈天に間違いなく殺されてしまうだろう。
 しかし問題は、その後に残された魂を奪われることだ。
 望まぬ犠牲を強いられ、あげく国を滅ぼされる最悪な結果だけは避けたい。
 そうなるくらいなら、いっそのこと――。

「雪……」

「なんだ?」

「ボクを殺せ」

 月夜の言葉に、雪の反応はなかった。
 きこえていなかったのかと、もう一度口を開く。

「ボクを殺して、十六夜に――」

「断る」

 今度は即、答えが返る。
 けれどそれは、月夜にとって無慈悲でしかなかった。
 他に導きだせる答えがない。
 なのにこれでは――。

「お前は俺のものだ。肉体だけでなく、その魂もすべて」


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