雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜
 目を開けると、仄暗い中によく見知った顔が浮かんでいた。

「……雪」

「すぐにここも見つかる。その前に、お前には話しておくことがある」

 松明に照らし出された、見覚えのある壁画に、この場所がどこなのかを知る。
 月夜は立ち上がり、須佐乃袁の眠る部屋を見上げた。

「話は須佐乃袁様から訊いた。ボクがなぜガルナに来たのか、そしてなぜお前が無駄だと云ったのか……」

「……そうか」

「ボクのことは、ずっと……生まれる前から知っていたのか?」

「ああ」

 その静かな答えに、月夜の心臓は鼓動を速めた。

「じゃあ……生まれてからずっと、ボクを見ていたのは――」

 視線を落とした月夜の瞳に、雪の真っ直ぐな眼差しが飛び込んだ。
 思わず目を逸らし、あらためて視線を戻す。
 気を許せば、途端に取り込まれそうな力強い瞳に、緊張で胸は高鳴った。
 幼いころから、どこからか感じていた視線。
 まるで自分を見守っているようで、いつしか心の支えになっていた。
 なぜそう思えたのかわからない。
 だがそれは、月夜自身が気づいていたからではないのだろうか。
 それが、彼であると。

「そうだ。ずっと、お前を見ていた……それが俺の役目だった」

「役目?」

「帝釈天の目をお前に向けさせないため、須佐乃袁が本懐を遂げるまで、お前を帝釈天に渡さないためだ」

「じゃあ……霊山で逢ったのは」

「偶然ではない。だが、逢うつもりはなかった。お前が無茶をしなければな」

 はじめて精霊を調伏した夜、月夜の甘さが招いた危機を彼が退けた。

『もう、逢うことはない』

 本気でそう考えていたのだろう。
 須佐乃袁がガルナからいなくなれば、彼も霊山から姿を消すつもりで。


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