雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜
――そのあとは、普通の人間としての生をボクは生きたはず。神との関わりも知らないままに。

 たとえその後に国がどうなろうと、それは神の知るところではないのだ。
 胸に鈍い痛みが走った。

――彼に出逢わなければよかったのか? 神山に入り傷を負わなければ? ボクがこの世に生まれなければよかったのか!

 後悔の波が怒濤のように押し寄せてくる。

「どうしてボクなんかを、神は……須佐乃袁様も、十六夜も救えないボクなんかを……」

 うつむいた月夜の頭に、大きな手が被せられた。

「ミトラはそんなことのためにお前を生み出したわけではない。なんでも自分のせいにするのはやめろ、お前は神にでもなったつもりか?」

 容赦のない言葉に、月夜はこぼれかけた涙をぐっとこらえた。
 情けなかった。
 ずっと続く胸の痛みが、自分を気弱にさせている。
 雪の云いようには腹も立つが、確かになんでも己を責めて気がすむのなら、それはただの自己満足に過ぎない。
 起きてしまったことをいつまでも悩む暇があるなら、今できることを考えるべきだ。
 月夜の考えを読み取ったように、大きな手が頭を撫でた。

――あたたかい。

 月夜は安心感に包まれるのを感じた。
 不器用な優しさが、凍りついていた心の芯を溶かしはじめる。

「イシャナを助けたい……どうすればいいか、教えてくれ」

 見上げた雪の表情が、空々しく見えた。
 月夜は首をかしげる。

「どうした? お前に訊けと云われた……」

 云いかけた月夜の、頭から降りた手があごを掴んだ。
 何事かと表情を固めたそのすぐ傍に顔を寄せ、雪のくちびるが動く。

「お前は魔を畏れていただろう。なぜ、そこまで小僧にこだわる? それにどんな意味がある」


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