雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜
「い、意味って……そんなもの――」

 気色ばんだ顔で迫る雪に圧され、咄嗟に思いつかず言葉を濁す。
 なぜ怒っているのだ、という疑問がぐるぐると頭を巡る。

――ボクがなにかおかしなことを云っただろうか?

「そんなにあれを助けたいか?」

「え? ああ。助けたい……できることなら」

 心なしか返事は弱気になり、月夜は真っ直ぐに雪の目を見た。
 見返してくるその顔に、鼓動を煽られる。
 なぜか彼にはいつも動揺させられている。
 魔物だということが、自分に畏れを抱かせるせいなのか?
 月夜は不思議に思った。

――だからと云って、恐いというわけではない。むしろ……。

「俺が……恐ろしいか?」

 そう訊かれ、月夜は戸惑った。
 どうにもすべてを見透かされているようで、落ち着かない。

「お……お前なんか恐いわけがないだろう! ボクを馬鹿にするなっ」

 誤魔化すような態度をとってしまったことに、月夜は後悔して視線をそらした。
 さらには雪の息づかいを近くに感じて身体が硬くなる。
 これでは恐がっているように見えてしまう。
 でもそうではないのだ。

「ほ……本当だ。よく、わからないけど……”お前は”恐くない……」

 自分でもおかしいと思う。
 平気で人間を殺し、その命を喰らおうとする魔物――神をも畏れず、傷ひとつつかない強靭な肉体と精神力の持ち主――
 そのような相手に月夜が抱いたのは、安心感だった。
 最初に阿修羅を受け入れた刻よりも、ずっと強い繋がりを月夜はかんじている。

――これは、契りのせいなのか?

 魂の交わる行為は、激しい恥辱を伴う。
 すべてをさらけだされ、相手に隅々までねぶられるような気がする。


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