雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜
そんな屈辱的な目にあわされて、本来なら怒りしか湧いてこないはずだ。
だが、そうしてどんな自分も余さず受け入れられるというある種の快感は、月夜に別の感情を植えつけた。
――この男だけは、絶対に裏切らない。
二人の眼差しが、確信を帯びて結びつく。
雪の鼻先が、ゆっくりと月夜の頬や額を掠める。
まるで花の香りでも確かめるような仕草に、月夜は顔を赤らめた。
「な、なにしてる…」
「真実か確かめている。偽りなら匂いでわかる」
「に、匂い?」
掴まれたままのあごをさらに引き寄せられ、耳や首にまで鼻をくっつけられた。
「馬鹿っ! は、離せ……そんなもの、わかるかっ――」
いきなり喉元になま暖かい感触が走る。
月夜の身体がびくりと跳ねる。
――ま、また…!
新鮮な血肉を前に、たまらず手を伸ばした魔物の舌が、月夜の味を期待しうごめく。
そして思い出す、交わされた契約。
自分は魔物の生け贄なのだと――。
「っ……雪……」
ひどく打ちのめされた想いで、ようやくその名を声にする。
しかし雪が離れる気配はない。
――そんなにボクは美味いのかっ!
半ば自棄になりながら、自分を掴む太い腕を引っ張った。
「この……ケダモノぉ……っ」
目尻から熱いものがこぼれた。
胸に迫る何かに、息がままならなくなる。
月夜は自分でも理解できない感情に、溢れる涙を止められなかった。
「月……なぜ泣く?」
「な、泣いてなんか……っ」
口では否定しながら、胸の奥が苦しくて苦しくて、本当は叫びだしたかった。
死ぬのが怖いからか?
魔物の餌食になどなりたくないからか?
――違う……ボクは。
だが、そうしてどんな自分も余さず受け入れられるというある種の快感は、月夜に別の感情を植えつけた。
――この男だけは、絶対に裏切らない。
二人の眼差しが、確信を帯びて結びつく。
雪の鼻先が、ゆっくりと月夜の頬や額を掠める。
まるで花の香りでも確かめるような仕草に、月夜は顔を赤らめた。
「な、なにしてる…」
「真実か確かめている。偽りなら匂いでわかる」
「に、匂い?」
掴まれたままのあごをさらに引き寄せられ、耳や首にまで鼻をくっつけられた。
「馬鹿っ! は、離せ……そんなもの、わかるかっ――」
いきなり喉元になま暖かい感触が走る。
月夜の身体がびくりと跳ねる。
――ま、また…!
新鮮な血肉を前に、たまらず手を伸ばした魔物の舌が、月夜の味を期待しうごめく。
そして思い出す、交わされた契約。
自分は魔物の生け贄なのだと――。
「っ……雪……」
ひどく打ちのめされた想いで、ようやくその名を声にする。
しかし雪が離れる気配はない。
――そんなにボクは美味いのかっ!
半ば自棄になりながら、自分を掴む太い腕を引っ張った。
「この……ケダモノぉ……っ」
目尻から熱いものがこぼれた。
胸に迫る何かに、息がままならなくなる。
月夜は自分でも理解できない感情に、溢れる涙を止められなかった。
「月……なぜ泣く?」
「な、泣いてなんか……っ」
口では否定しながら、胸の奥が苦しくて苦しくて、本当は叫びだしたかった。
死ぬのが怖いからか?
魔物の餌食になどなりたくないからか?
――違う……ボクは。