雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜
「うぁああっ!」
今度は反対側の脚に激痛が走る。
月夜は息も絶え絶えに、今にも意識を失いそうだった。
痛みは灼熱となって神経をめぐり、全身が炎に包まれたようだ。
何も考えられず、霞む眼でよすがを探した。
この苦しみをどうにかして欲しい。
早く意識を手放してしまいたい。
朦朧とする意識の片隅で、絶望感が頭をもたげる。
しかし、無情な声は月夜を逃がしてはくれない。
「苦しいか? ならば躊躇わず封印を解き、すべてわたくしに委ねるとよい。楽になれるぞ」
現実に引き戻され、因果にささやかれた月夜は、しだいに憤りを感じはじめた。
わきあがる焦燥が、辛うじて首を横に振らせる。
「頑迷な……ならばこれではどうじゃ?」
帝釈天の爪が、容赦なく雪の肩を裂いた。
「な……っ」
月夜の叫びに、帝釈天の口許が歪に上がる。
雪は微動だにせず、されるがまま身体中から血を流した。
どれだけ必死にもがいても、雪に刻まれる傷がふえていくのをただ見ていることしかできず、月夜は酷くうちひしがれた。
――なにもできない……ボクには、抗うことさえも。
「お願い……します。もう……やめて……」
血を吐くような思いで、月夜は呟いた。
――本当に、これで……いいのか?
「……月」
厳しい表情をしながら、それでもどこか自分を受け入れてくれる雪の瞳を見て、月夜は胸が熱くなる。
――いいんだ。これで、彼を救える。
覚悟を決めた瞬間、月夜の中で何かが大きくまわりはじめた。
呼応するように現れた光の塊が、額に潜り込んでいく。
同時に流れ込む記憶、それに同調し呼び覚まされる力。
月夜の魂は、遥か遠くにまで飛ばされた。
今度は反対側の脚に激痛が走る。
月夜は息も絶え絶えに、今にも意識を失いそうだった。
痛みは灼熱となって神経をめぐり、全身が炎に包まれたようだ。
何も考えられず、霞む眼でよすがを探した。
この苦しみをどうにかして欲しい。
早く意識を手放してしまいたい。
朦朧とする意識の片隅で、絶望感が頭をもたげる。
しかし、無情な声は月夜を逃がしてはくれない。
「苦しいか? ならば躊躇わず封印を解き、すべてわたくしに委ねるとよい。楽になれるぞ」
現実に引き戻され、因果にささやかれた月夜は、しだいに憤りを感じはじめた。
わきあがる焦燥が、辛うじて首を横に振らせる。
「頑迷な……ならばこれではどうじゃ?」
帝釈天の爪が、容赦なく雪の肩を裂いた。
「な……っ」
月夜の叫びに、帝釈天の口許が歪に上がる。
雪は微動だにせず、されるがまま身体中から血を流した。
どれだけ必死にもがいても、雪に刻まれる傷がふえていくのをただ見ていることしかできず、月夜は酷くうちひしがれた。
――なにもできない……ボクには、抗うことさえも。
「お願い……します。もう……やめて……」
血を吐くような思いで、月夜は呟いた。
――本当に、これで……いいのか?
「……月」
厳しい表情をしながら、それでもどこか自分を受け入れてくれる雪の瞳を見て、月夜は胸が熱くなる。
――いいんだ。これで、彼を救える。
覚悟を決めた瞬間、月夜の中で何かが大きくまわりはじめた。
呼応するように現れた光の塊が、額に潜り込んでいく。
同時に流れ込む記憶、それに同調し呼び覚まされる力。
月夜の魂は、遥か遠くにまで飛ばされた。