雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜
「なんじゃ、貴君にできることはもうないであろう? 何かしようものなら……失望よりももっと酷な念を、ミトラに抱かせてやるぞ」
脅しなのは月夜にもわかった。
しかし結局、帝釈天は須佐乃袁以外どうしたいとも思っていないように見える。
目的さえ果たせれば、何をしてもあるいはしなくてもいいのだ。
逆にそれが恐ろしい。
「っあ……!」
突然大腿部が熱く弾け、思わず声をあげた。
膝を濡らすものが大量に、浮いたつま先から滴った。
恐る恐る下を見た月夜の視界に、淡く松明に照らし出された己の脚が映り込む。
長い裾が裂けて、だらりと地面に着いた切れ端が、脚から流れる色に染まっていく。
――血……か? 脚を、斬られたのか。
そう思った途端、鋭い痛みが下半身を襲った。
「……っ……」
「なんじゃ、もっと声を出して叫んでもよいのだぞ? それでは羅刹天にお前の苦しみがわからぬではないか」
帝釈天は残酷で艶美な笑みを浮かべながら、痛みに震える月夜の頬を撫でた。
「ミトラの分身であるお前を殺してしまうのは、わたくしとて少しは咎める……じゃが人間であれば、仕方のないこと。それが天の理なのじゃ」
「こと…わり? 天は……人間が滅ぶのを……望んでいると?」
帝釈天は刹那、まぶたを伏せ、そしてあげた。
「そうじゃ」
天が人間を滅ぼしたがっている。
そんな事実を、どう受けとめればよいのか、月夜にはわからなかった。
「俺はそうは思わん」
霧にのまれた月夜の心に、一条の光が射す。
「羅刹天……貴君は神でありながら、そのように天に刃を向ける……感心はせぬが、それに惹かれる者も少なくない。その貴君に云うことをきかせられる機会など、これが最後かも知れぬな……」
脅しなのは月夜にもわかった。
しかし結局、帝釈天は須佐乃袁以外どうしたいとも思っていないように見える。
目的さえ果たせれば、何をしてもあるいはしなくてもいいのだ。
逆にそれが恐ろしい。
「っあ……!」
突然大腿部が熱く弾け、思わず声をあげた。
膝を濡らすものが大量に、浮いたつま先から滴った。
恐る恐る下を見た月夜の視界に、淡く松明に照らし出された己の脚が映り込む。
長い裾が裂けて、だらりと地面に着いた切れ端が、脚から流れる色に染まっていく。
――血……か? 脚を、斬られたのか。
そう思った途端、鋭い痛みが下半身を襲った。
「……っ……」
「なんじゃ、もっと声を出して叫んでもよいのだぞ? それでは羅刹天にお前の苦しみがわからぬではないか」
帝釈天は残酷で艶美な笑みを浮かべながら、痛みに震える月夜の頬を撫でた。
「ミトラの分身であるお前を殺してしまうのは、わたくしとて少しは咎める……じゃが人間であれば、仕方のないこと。それが天の理なのじゃ」
「こと…わり? 天は……人間が滅ぶのを……望んでいると?」
帝釈天は刹那、まぶたを伏せ、そしてあげた。
「そうじゃ」
天が人間を滅ぼしたがっている。
そんな事実を、どう受けとめればよいのか、月夜にはわからなかった。
「俺はそうは思わん」
霧にのまれた月夜の心に、一条の光が射す。
「羅刹天……貴君は神でありながら、そのように天に刃を向ける……感心はせぬが、それに惹かれる者も少なくない。その貴君に云うことをきかせられる機会など、これが最後かも知れぬな……」