クロスリング
芝生に埋め込まれた平たい石の道を通って玄関の前に立つと、自然と懐かしさが込み上げた。幼なじみの男の子とよく、この庭で遊んだものだ。
もう七年前のことなのに、記憶が鮮明に蘇る。
アンティーク調の取っ手に手を掛けたとき、ドアが開いて母が顔を出した。
「ルイ! お母さんちょっと引っ越し屋さん来る前にご近所に挨拶してくるから、中に入っておばあちゃんにお茶だしてくれる」
「あ、うん」
慌ただしく走り去る母の後ろ姿を見送ったあと、私は玄関に足を踏み入れた。段差のないゆったりとした造りの玄関は、久しぶりに来ても何だかほっとする。
「ルイ?」
靴を脱いでいると背後で声がした。廊下の奥から、 祖母がゆっくりと歩いてきた。七年前と同じ、皺だらけのくしゃっとした笑顔で嬉しそうに私に触れる。
昔と変わったことは、少し痩せたことくらい。
「あらあら、ずいぶん大きくなって! とっても美人さんになったわねぇ」
接し方も七年前のまま。私は少し気恥ずかしくなって、目を反らした。茶菓子とお茶の葉が入った紙袋を差し出す。
「これ、お母さんが。おばあちゃんにって」
「あらら、なんだかねぇ~。気にしなくていいのにね。それじゃ、お茶淹れるから早く中はいんなさい」
受け取りながら祖母は申し訳なさそうにしたあと、リビングの方に私を手招いた。
リビングは白を基調にした家具で整えられていた。吹き抜けの天井に、日当たりの計算された窓から差し込む光。
一人暮らしの祖母にとっては広すぎるくらいだ。そんな家をどうやって管理していたのだろう? と疑問に思う。
私は上着を脱いで、キッチンに向かった祖母のあとに続いた。
「私がやるよ」
忙しなく動く祖母に声を掛け、仕事を譲り受ける。
ありがとうと言いながら、祖母は少し寂しそうな視線を私に向けた。
「ルイ、学校は楽しい? もう高校生なのよね」
「うん…それなりに」
「そう。なんだか急に大人になって見えて。長いこと会ってないからかしらね」
「そうだよ、七年振りだもん」
私は口角を上げて見せた。一応笑ってみせたつもりだった。
それっきり祖母はその話題に触れなかった。
茶菓子を皿に盛って、熱いお茶と一緒にお盆に乗せる。
「美味しそうなお菓子。あっちに座って食べましょ」
祖母にさっきと同じ笑顔が戻ったので、私はほっとしてリビングに戻った

