クロスリング

「そろそろね」

 

 マライアのアルバムも終盤に差し掛かった頃、母がほっとしたように呟いた。少しうとうとしていた私は、目を擦っていつの間にかがらりと変わった窓の向こうの景色を見た。

今走っているバイパスの両側にはずらっと、以前はなかったような飲食店や百貨店、カラオケ店等が立ち並んでいる。

昔から変わらないスーパーを見つけたときは、何故か安堵したほど、そこは様変わりしていた。


バイパスを左に逸れてしばらくすると、また懐かしいものが目に入った。公園だ。

記憶のなかでは確か、赤い色の道の両脇には花壇があって、春から夏の間は色とりどりの花が出迎えてくれた。

充実したアスレチックの隣には青々とした芝生が広がっていて、小さな丘の上に屋根付のテーブルとベンチが一つ。

よく祖母と二人で、お弁当を持って来たものだ。
横目に通りすぎる時、沢山の小さな可愛らしい桜の木が見えたので、花が咲いたら来てみようと思った。

 
公園からそれほど離れてないところに、祖母の家はあった。
デザイン住宅の一軒家が堂々と建ち並ぶなかで、それは一際目を引いていた。
白い外壁に、暖かみのあるオレンジ色の屋根。綺麗に手入れされた庭は、ガーデニングが趣味の祖母のためにデザインしたらしい。
あの公園の花壇に負けないくらい見事なものだった。
まるで、この空間にだけ外国の写真を切り取って貼り付けたみたい。

空っぽの駐車場に車を停めると、母は周りを見渡して言った。


「まだ引っ越し屋さん来てないみたいね。おばあちゃんに和菓子とお茶買ってたから、ルイ悪いけど持ってきて」

「うん」

 私が返事すると、必需品だけが入った小さいバッグを持って母は先に車を降りた。
体をよじって、後ろの座席から紙袋を二つ取り私もそのあとに続いた。







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