砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
 毬が本をめくっている頃、龍星はようやく都近くへと戻ってきていた。


 しばらく、馬を走らせていた龍星だが、平安京に入るなり、ふと風を見て思わず言葉を逸する。

「何かあったのか?」

 雰囲気の変わりように、雅之が思わず言葉をかけた。

「ああ、傍に居ると約束した翌日に、俺が一人で姫を留守番させた報いだな」

 龍星が一人ごちて言うと、不意にこらえられないように笑い出した。
 一人、話しについていけない雅之は不満をもらすほかない。

「俺には面白いことは何も見えぬが?」

「見えぬか?
 ここら中でよく見かけるはずの猫が、今日は一匹もおらぬではないか」

「それが、何か?」

 猫が見えないことが、そんなに面白いだろうか。
 雅之は首を捻る。

「ばらばらにいる都中の猫が一箇所に集まったら、どう思う?」

「どうって?
 そりゃ、さぞかし煩くて、……手に負えないんじゃないか?」

 そんな絵空事のような話をされても、想像も出来ない、と、雅之は肩を竦める。

「見せてやるよ」

「何処で?」

「うちで」

「は?」

 いつものように先の見えないやりとりをした後、龍星がふいに馬の腹を蹴り速度を上げた。雅之もそれについていく。

 しかし、二人は途中で馬を降りるほかない羽目に陥った。

 都から、龍星の家へと続く道は、見たこともないほど夥しい数の猫に占領されていたのだから。

「龍星、これって」

 雅之は阿鼻叫喚すら思わせるような景色に絶句するほかない。
 龍星は面白そうに笑う。

「そう、これが毬を一人で留守番させた俺への報いさ。
 さすがのお姫様も、今頃部屋の中で震えて泣いているよ」

 龍星はそういうと、表情を一変させ、何事か唱えた。
 都一の陰陽師、といわれるその表情に、雅之も思わず魅入られてしまう。

 龍星は呪を唱え終え、ぱちり、と扇子を鳴らす。

 その直後。
 龍星の屋敷めがけて押しかけていた猫たちは、我に返ったかのように、三々五々と散っていった。

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