砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
 次に一向は、右大臣の幽閉されている牢をたずねた。
 こちらは御所のものが出入りする牢なので、帝は検非違使の格好を装うことにした。

 警備のものの言うことには、右大臣はここに入って以来ずっと眠っているとのことだった。

 死んでないことは、侍医によって確認済みだと、体格の良い警備の男が丁寧に説明してくれた。

 その報告を聞いた龍星は、終始無表情を貫いていた。
 警備の男を下げさせる。

「龍星?」

 帝が問う。

「おそらくは、ここに原因があると思われます。
 そういえば、和子様はどうしました?」

 龍星の問いに、帝はつまらなそうに口許だけで笑って見せた。

「面白かったから、入内させることにしたよ。
 今、お前が嫌いな面倒な準備の真っ最中さ」

「そうですか。
 和子様にはお会いに?」

「まさか。
 私は面倒ごとが大好きな内裏の中の人間だからね。
 決まりごとに背いたことはやらないのさ」

 と、検非違使の格好ではなんら説得力もないというのに、帝は真面目な顔で嘯いてみせる。

 龍星は雅之に視線をやる。

「雅之、和子様をどこかに……。
 そうだな、今、毬が居る屋敷へ呼び出してもらうよう、唯亮と交渉してくれないか?」

「分かった」

 唯亮は、昨日の時点でこの館にひそかに呼び寄せられていた。
 幸い、火傷もたいしたことはなく、多少の傷は残るものの、身動きには支障ない。


 最低限必要なことだけ伝えると、踵を返す雅之の後姿を見送ることもなく、龍星は足早に牢へと向かった。
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