モントリヒト城の吸血鬼①~ヴァンパイアの花嫁~
突如頭に浮かんだ
記憶の断片が、
恐怖に変わる。

炎の中、沙羅を
抱きかかえ走る
姉の姿。

炎に焼かれ、
動かなくなる、
たくさんの影。

「お…ねえさま…。」

すがる手を、探す。

沙羅の袖を引っ張って
いた力が弱まり、
視界にパタリと
倒れ込む猫の姿が
見えた。

沙羅と同様、黎明も、
炎がダメなの
かもしれない。

動かなくなった
黎明を守ろうと、
どうにか腕の中に
抱え込む。

「おねえさま…
たすけて…。
…さくや…さま…。」

幼い頃の火事の
記憶の断片がつながり、
脳裏に広がっていく。

沙羅と姫乃から
母を奪った、
炎という名の
略奪者の、記憶。

迫りくる現実と過去の
恐怖に耐えきれず、
沙羅はとうとう、
意識を手放した。
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