光のもとでⅠ
 マンションまでの道のりを見上げ、この坂を上るのか、とゴクリと唾を飲み込んだ。
 坂の頂点――そこにはコンクリートと空の境界を邪魔するものはなく、まるで空へ続く道のように見えた。
 曇り空のため、どうしてか空へつながる道に蓋をされているようにも見えたけど……。
「カーブがきれい……」
 あのカーブの向こう側には何があるだろう。
 そう思ったとき、「お姫様」と後ろから声をかけられた。
 振り返ると、静さんがガードレールに寄りかかり立っていた。
「あ……」
「目の前を通り過ぎられちゃったからどうしようかと思ったよ」
 そんなふうに言われ、近づいてくると頭をくしゃくしゃとされた。
「親子みたいに手をつないで帰ろうか」
 言われて差し出された手に右手を重ねる。
 静さんの手はとてもあたたかくて、とても大きな手だった。
「……こんな手が欲しいな」
「どうしてかな?」
「……あ、えと……このくらい大きな手だったらたくさんのものが持てそうだから」
「そう見えるかい? 意外とそんなこともないんだがな」
 私の説明不足な話に普通に返してくれるのが嬉しくて、本当の親子みたいにゆっくりと歩いてマンションを目指した。
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