光のもとでⅠ
 親子揃って確約破りね……。
 幸い目の前には父さんがいるし、証人になりそうな人間も揃っている。
 瞬時にそれを考えスピーカーの状態にして電話に出た。
「はい」
『やぁ、久しぶりだねぇ』
 まずは名乗れよ……。
「どちら様でしょうか。こちらのディスプレイには名前が表示されていないのですが」
『おぉ、すまないね! 柏木製薬の柏木だよ。今日は娘がお世話になったようだね』
 下卑た笑いを含んだ声で話す。
 すごく耳障りだ……。
 この時点で父さんの顔が一瞬険しいものとなり、スピーカーホンにした意味を察したのか、片方の口角だけを上げる。
 ……すぐにこの携帯は父さんに渡すから、存分に楽しんでいいよ。
 父さんはセールスの電話やこの手の確約破りに関しては徹底的に応戦する性質だ。
 それは子どもの俺から見ても性質が悪いとしか言いようのないレベル。
 ストレスがそんなに溜まっているのだろうか、と不安になるのはほんの一瞬。
 これは絶対に父さんの性分だと思う。
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