光のもとでⅠ
 抱きしめられたまま、
「翠葉ちゃん、ここへ来た日のことを覚えてる?」
「はい……」
「あのときの動揺の原因、その理由わかった?」
 え……?
 あの日の出来事を頭の中で回想する。
 確か、ホテルで司先輩を見かけてひどく動揺したのだ。
 原因は司先輩で、理由は――。
 同じようなことを海斗くんたちにも言われたような気がする。でも、
「いえ――司先輩に直接尋ねたら、お見合いじゃないって言われて……」
「それで?」
 それで……。
「安心して、今の今まですっかり忘れていました」
 答えると、秋斗さんは「くっ」と笑い出した。
「翠葉ちゃんらしいけど、それ、ちゃんと理由を突き止めたほうがいいと思うよ」
 そう言うと、腕からは解放され、右手だけが拘束されたまま。
 放心状態で手を引かれるままに歩き駐車場へ戻ると、いつものように助手席のドアを開けてくれ、シートに座るとドアを閉めてくれる。
 運転席に座った秋斗さんの手が伸びてきて、
「シートベルトは締めないとね」
 と、キスをされた。
 びっくりしつつも、両手だけが咄嗟に動く。
 今さら口もとを押さえたところでなんの意味もないのに。
「君は本当に無防備すぎるんだ。今後は少し警戒したほうがいいかもよ?」
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