光のもとでⅠ
「いや、そういうんじゃなくて……」
「もしかして会社辞めるとかその手のことかっ!?」
 いやいやいやいや……。
「違うから……」
 すると父さんは胸を撫で下ろした。
「それでなんなの?」
 と、面白そうに訊いてくるのは紅子さん……。
 うちで紅子さんを母さんと呼ぼうものなら怒られる。外で呼ぼうものなら美しく微笑まれる。
 そろそろ母親の自覚を持っていただきたい。いや、しっかり母親業はこなしているし、母さんなんだけど、どうにも「お母さん」と呼ばれるのが嫌らしい。
 紅子さん曰く、「一気に老けた気がするのよ」らしい。ゆえに、子どもや姪甥にも「紅子さん」と呼ぶことを徹底させている。それが浸透していることもあり、俺たちも紅子さんのお姉さんにあたる人のことは「真白(ましろ)さん」と呼び、決して伯母さんと呼ぶことはない。
 紅子さんは落ち着きのない末っ子で、真白さんはおとなしく楚々とした感じの人。
 真白さんと涼(りょう)さんの子どもが司と楓くんっていうのはわかるけど、湊ちゃんはイレギュラーだと思う。どうして性格面だけでも真白さんに似なかったのか……。
 うちに関していうならば、この両親にしてこの子あり――感満載。
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