銀棺の一角獣
「連れて行かなくて正解よ。自分たちが逃げ出すのだけで精一杯だったんだもの」


 鏡の前に立つ自分の姿は、ずいぶんやつれてしまったと思う。ここを出る時よりも少し痩せているのがわかった。

 浴室に入ったアルティナの髪を、グリアは三回洗った。三回洗って、ようやく綺麗になる。

 手足も丹念に磨き上げて、全身に穏やかに香るクリームをぬりこむ。手足の爪も輝きを取り戻すまで磨いて、グリアはようやく合格点を出したようだった。


「――喪服を?」

「いえ、その淡い黄色にしましょう。いつまでも喪に服しているわけにはいかないの」


 父や兄を失った悲しみは生涯忘れることはない。けれど、今はそれどころではないこともわかっている。

 アルティナは決意とともに鏡の中の自分を見つめる。意図して口角を上げて明るい表情を作ろうとした。

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