銀棺の一角獣
 それを、彼の愛情が自分にむいているのをいいことに、ディレイニー王国まで同行させた。自分が他の相手に嫁ぐその瞬間を彼が見届けなければならないのだとわかっていて。


「あいつは苦労だとは思ってないさ」


 ティレルはアルティナの悩みにまた笑い声を上げる。


「お前が死ねと言えば、喜んで命を投げ出すだろう」


 アルティナは馬上で目を伏せた。そうなっては困るのだ。そんな命令を出すことがなければいい。

 ややあって、戻ってきたルドヴィクはにこにことしながらアルティナに言った。


「今宵一夜、村長の家を借りることができるそうです」

「わたしたちのことは何て説明したの?」

「リンドロウムに住む貴族の娘で、王宮から帰るところだと――この山を越えれば迎えの馬車が来ているはずだと言ってきました」

「それで納得してくれたかしら」

「十分な礼をすれば問題ないでしょう」


 ミラールの合図で一行は馬を進め始める。
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