銀棺の一角獣
 考え込みながら、ティレルも返す。


「だが、ライオールを乗っ取っている魔物に影響を受けているのなら、俺が気づかないはずはない。買収されたのだろうな」

「買収……」


 アルティナは、昨夜宿泊しようとした村の貧しさを思い起こす。急に即位したこともあって、国内全てにアルティナの目が届いているとは言い難い。

 彼らの貧しさが、主君であるアルティナを敵国に売り渡すという決断をさせたのだろうか。


「アルティナ」


 ティレルが小さいながら、厳しい声音で彼女の名を呼ぶ。


「あまり気に病むな――人の心は弱い。お前だって、そうだろう?」

「……そうよ」


 自分の弱さは一番よく知っている。ずるさも。


「わたしは弱くて、ずるくて、王の器ではないの――お兄様が生きていれば、女王になんてなることもなかった」


 アルティナはゆっくりと視線をあげる。やはり目にとまるのは、ルドヴィクの鮮やかな金色の髪。
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