銀棺の一角獣
「ああ、大変だったな。痛かったな――二度とやろうとは思わん」


 林檎をもぐもぐと噛みながらティレルは言う。彼の毛並みは侍女たちが入浴させて磨き上げたのでつやつやと輝いていた。


「それでも、キーラン様がいらっしゃらなかったら……」


 なおも言い募るアルティナにたいして、キーランはくすりという小さな微笑みで返す。


「それを言ったら君たちがいてくれたから、僕の父を守ることができた」


 これ以上は言わないように、とキーランはアルティナを征する。アルティナはキーランの意をくんで、口を閉じた。


「じゃあ、今のうちにルドヴィクにお別れを言ってくるよ。次に会えるとしても、いろいろ片づいた後だから半年以上先になるだろうしね」

「キーラン殿下」


 この場に控えていたデインが、先に立ち上がる。
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