銀棺の一角獣
 アシュリーを抱きしめていた男が、ゆっくりと身体を離す。下穿き一枚だけを身につけて窓に向かった彼は、勢いよくカーテンを開く。月の光が入ってきて、部屋の中は少しだけ明るく照らされた。アシュリーは彼の肩越しに窓を見つめていた。


「俺より、月の方が気になるか?」


 彼女が自分には逆らえないことを知っている者特有の傲慢さで男はたずねた。暗い茶色のアシュリーの髪をすくいとって口づける。

 赤と金の混ざった髪を無造作にかき上げて、ライオールは緑の目を細めた。


「いえ、殿下――はるか北の方では窓が凍って月を見るのも大変なのだ――と聞いたのを、不意に思い出しただけです」


 わずかに口元を緩めてアシュリーは身体を起こす。今まで彼に抱かれていたとは思えないほどの冷淡さで背を向けると、手探りで着ていた物を探し始めた。月光のおかげで、彼が蝋燭に火をつけてくれなくてもいつもより楽に見つけることができる。
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