銀棺の一角獣
 運び込まれた棺を眺めてライオールはつぶやいた。アルティナも棺を見るのは久しぶりのことだった。

 年に何度か行われる儀式の時以外は、一角獣の眠りを妨げないように棺の安置されている部屋は封印されていた。

 最後に儀式を行った時には、父が儀式を執り行い、アルティナはその側で棺の前に捧げる花輪を持っていた。あの時には兄もまだ存命で――押し寄せてくる幸せだった頃の記憶に、心が乱される。

 身体に回されたキーランの腕に力がこもるのがわかった。


「……落ち着いて。今、君はここで取り乱すべきじゃない」


 彼の言うことはもっともだ。なぜ、彼がこんなにアルティナを支えようとしてくれるのかはわからないけれど。


「……えぇ……ありがとう、ございます……」


 キーラン様、と続けて名を呼ぶ――本当に呼びたかったのは彼の名ではないのに。


「アルティナ殿」


 ライオールがアルティナを呼ぶ。そして彼はアルティナに恐るべきことを命じた。

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