銀棺の一角獣
 立ち上がりかけたキーランは、もう一度椅子に腰を落とした。


「忘れないで。君は僕の預かりだから。婚約者だから丁寧に扱うように使用人たちには言いつけてある。もし誰か無礼な態度を取る者がいたら――」

「大丈夫ですわ、キーラン様」


 ケイシーはよくやってくれている。その他アルティナの身の回りにいる人たちも、誰もアルティナに対して無礼な態度なんてとらなかった。


「それならよかった。それと、あの扉」


 キーランは自分の私室へと続く扉を手で示す。


「あの扉はどちら側からも鍵がかけられるんだ。僕の方からも鍵をかけておくけれど、不安そうなら君も鍵をかけておいて」


 お休み、と言い残して今度こそキーランは自分の部屋へと戻っていった。彼の部屋へ通じる扉からではなく、わざわざ一度廊下に出て。

 彼の好意に応えられないことを、アルティナは申し訳なく思った。

 現在の状況で彼との婚約がこのまま結婚にまで進むのかわからないけれど――彼との関係がこの先どうなろうと、この恩を全力で返さなければとアルティナは思った。
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