銀棺の一角獣
「……いえ。一角獣を解放してしまったのは問題だったかしら?」

「……どうでしょう。それは問題になるのかどうか――」


 カレンは胸元に手を差し入れた。取り出した書状を、アルティナの方へと滑らせる。アルティナはそれを受け取ると、裏を返した。

 父や兄が存命の頃は、アルティナがそれを受け取ることはなかった。赤い封蝋に一角獣の紋章が施されている。


「……神官長からなのかしら?」

「さようでございます」

「今、見るわ。このまま待っていて」


 ケイシーに渡して、封を切ってもらう――アルティナに刃物は一切与えられていなかったから。


「……形式的なものね」


 中身を確認して、アルティナは返す。


「……あなたの言うことに従えと書いてあるけれど」


 ややあってアルティナはため息をついた。


「伝承の儀式を行うためには、あなたたちの神殿に行かなければならないと書いてあるわ。でも――わたしはここから出られないもの」


 牢ではなく客人の部屋に滞在していられるのは、キーランの好意のおかげだ。この城を出る方法なんて思いつかなかった。
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