お見合い相手は変態でした
出会い
「エルザ……もう、諦めようと思います。」


薔薇をモチーフにした装飾で縁取られた鏡を前に、マーガレットは憂い顔でポツリと漏らした。マーガレットの心中を思うと、何を言えば心を晴れやかにできるのかと悩むばかりで、エルザは黙って、髪を結い上げる為に手を動かすしかなかった。


今日の午後、ハーヴェス子爵家では、次女のマーガレット・ハーヴェスの見合いをする手筈となっている。マーガレット付きの侍女であるエルザは、何とかそれを逃れる方法はないかと思案していたが、何も思いつかず、とうとう当日となってしまったのである。


マーガレットが心から見合いに集中できない理由を、エルザは知っていた。見合いが決まるより1年も前から、悩みとして打ち明けられていたからだ。



マーガレットは、ある人物に恋をしていた。相手は階級が自分の家よりはるか上の、現皇帝の弟ウィリアム・ギュレット公爵。
社交界デビューした18歳の時、はじめて招待された王宮主催のパーティーにてたった一度その姿を見ただけで、恋に落ちてしまったのだ。


ウィリアムは人柄もその容貌も良く、家柄も申し分無い。もし自分の娘がウィリアムと結婚すれば、王族と縁戚となり、王宮内での発言力も強くなる。
年頃の娘を持つ貴族達はこぞってウィリアムに娘を売り込んだが、ウィリアムは笑って受け流すだけで、未だ一度も受け入れた事はなかった。


マーガレットも父に頼んでみようかとも考えたが、誰が声をかけても受け入れなかったのだから頼んでも無駄だと思い込み、侍女のエルザにだけ、気持ちを吐露していた。



今日のパーティーでは亜麻色の髪が艶やかだったとか、低いがよく通る声が素敵だったとか、一度で良いからダンスを共に踊ってみたいだとか……。



エルザはパーティーに出れる立場では無く、ウィリアムの顔を拝んだ事は一度も無かったが、マーガレットが好む相手なのだからさぞ素敵な人なのだろうと思っていた。
マーガレットは自分などが釣り合う筈が無いとよく言っていたが、マーガレットは心根も清廉、母親に似た美しい容貌をしている。きっと見た目にもお似合いの筈だと、内心歯がゆく思っていた。
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