アカイトリ
まだ傷が癒えていない颯太を眠らせる為、天花は夜明け前に部屋を出た。


「お前の喘ぎ声が外まで響いていたぞ」


そこが定位置とでもいうように、凪が屋根に座って声をかけてくる。


凜とした表情でそれを見つめる。


「何をしに来た」


すたっと天花の前に降りると、さらりと天花の髪に触れてきた。


「何って…お前に会いに来たに決まってるだろ」


ぎっと瞳を吊り上げて凪の手を振り払うと、距離を取った。


「問うが、碧に抱かれたか?」


「そんな質問には答えないぞ」


左目に縦に走った傷。

漆黒の右目がじっと天花を見つめる。


「無理だったろう?」


言い当てられ、思わず凪を振り返った。

そんな天花の顔を見て凪が肩を竦める。


「おい、なんて顔をしてんだよ天花。色違いは絶対に結ばれない。お前も知っているだろうに」


…だから、先程も颯太を拒絶してしまった…


「あの碧の末裔とは真に結ばれることは叶わんだろうな。俺には好都合だが」


くつくつと喉だけで笑う凪の黒髪が風にさらわれてゆく。


「…お前も、神の呪いに囚われているのか?」


「あ?…まあな。俺の場合は、親父に吹き込まれたのが大半だが。できるものならば、もしまみえることがあるならば…神をこの手にかけて殺してやる」


「人のことも、呪っているのか?」


「いや、そうでもないな。女は抱き放題だし、欲しいものは盗んだり力に任せれば手に入るからな」


野蛮で粗暴な凪。


「…わたしは、人を憎んでいた。接したこともなかったのに」


魂に刻まれた情報のみを鵜呑みにして、人を避けて生きてきた――


「…お前も、颯太と話せばわかる」


「何をだよ」


「颯太は、憎しみも悲しみも全てを受け入れて、包み込んでくれる。契約通り、颯太の命を脅かすことがないのであれば、一度話してみろ。そうすれば、わかる」


慈愛を込めて切々と語った天花に、凪が肩をすくめた。


「ああ、そうだ。これをやる。俺を敬えよ」


そう言って凪が差し出したものは――
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