アカイトリ
朝になっても朱い鳥の姿に戻らない天花。


芹生を除いた全ての使用人が、それを楓から知らされた。


事を聞かされていない芹生は、天花の部屋を見つつ植木の刈り込みに勤しむ。


「最近、あの朱い鳥を見ないなあ…。そのかわり、天花様はよく見るようになったけど」


最近、天花はさらに美しさに磨きがかかったような気がする。


前は話しかけても返事がないことが多かったが、近頃は雑談にも応じるようになっていた。


「何より、ご主人様と一緒に居る時の天花様といったら…!」


きゃあ、と悲鳴でも上げそうな勢いで芹生は一人で悶えていた。


「心通じてるって、あのお二人のことを言うんだろうなあ」


ぽやっとしていると、俄かに門番が言い争う声がして芹生は足を運んだ。


「…!あ、あいつは…!」


屈強な門番の攻撃を華麗に避け、悠々と正門から凪が入って来た。


芹生は手にしていた鋭利な鋏を振りかざし、凪に突進した。


「何様だお前!よくもぬけぬけと現れやがったな!」


芹生を見て凪が首をかしげる。

記憶をたどり、ようやく芹生を思い出した様子でなでなでと芹生の頭を撫でた。


「よう、坊主。颯太は居るか?」


「!馴れ馴れしくご主人様の名を呼ぶな!俺は忘れてないぞ、お前がご主人様の命を狙ったことを!」


やいのやいのやっていると、騒ぎを聞き付けた楓と颯太が部屋から顔を出した。


「ああ、凪か。今日は珍しく正門からだな」


「おう。たまにはな」


…何?

今日がはじめてではないその口ぶり…


親しげなその雰囲気に芹生はいらいらした。


――とどのつまりはそれが一番芹生の気に触れて、怒鳴り口調で颯太を責めた。


「あなたの命を狙った男ですよ!?」


「ん?ああ、うん、そうだが今は慣れたものだ。もうあんなことはないから心配するな」


凪を手招きして呼び寄せると、意気揚々と尻尾を振りながら部屋へ向かう凪。


「どうなってんだよ一体…?」


――凪は部屋に入ると障子を閉めた。


楓という名の狂犬は変わらず傍に居るが、今日は目的ある来訪だ。


「俺に聞きたいことがあるとは何だ?」


座椅子に腰掛けるのを見守った後、颯太は囁く。


「神の居所を、知っているか?」
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