アカイトリ
天花ははっと我に返り、現実に戻ったが、颯太はそのまま動かなかった。


強く閉じた瞳、やや苦しげな表情…


天花は呼んだ。

何度も名を呼んだ。


「颯太!起きろ。颯太!」


――また、楽園に帰ってきた。


神――皇が、こちらをじっと見つめていた。


『お前が…私の葵が生んだ碧い鳥の末裔か』


近付いてくる。

見れば見るほど、自分と同じ顔をしている――


『裏切られた私の気持ちがわかるか?あんなもの…造らなければよかった』


…喋りたいが、口は開けど言葉が出てこない。


とうとう目の前までやって来た。


『…葵の瞳…私の瞳と同じ色をしている。なのに…なのに、私には、種がないというのに。どれほど愛しても、葵の欲しがったものを与えることができなかった。そしてつがいとなる伴侶を造らなかったのに、天球で出会った人に懸想し、私の元を去って行ったのだ』


皇が颯太の首にやわらかく手をかける。


『何故私と同じ顔をしている?私には生殖能力がないのに、何故葵は…』


最後は言葉にならず、ほろりとひと雫涙が零れ、地面に吸い込まれてゆく。


『私は目覚めた。お前は私を探したいという。だから機会を与えよう』


金色の束ねた長い髪を揺らし、皇が颯太を抱きしめた。


『これより近い未来、ある人間がお前を訪れる。私が授けた神の剣を手に、命を脅かすだろう』


颯太は喋れなかった。

だが、胸に抱かれた時、訳もなく込み上げてくる郷愁の想いに颯太もまた、涙を零した。


『私は…自分の手でお前たちを造った。だから、本当は殺したくない。けれど碧い鳥の末裔よ。お前たちだけは到底許すことができない。その人間を倒し、生き延びることができたならば、会ってやる。ただし…命を狩られる覚悟をしておきなさい』


とん、と肩を押された。

颯太はふらりと後ろによろけ、空を掴むように倒れた。


『葵に会いたい…。お前とも、再び』


矛盾しつつ愛を捨てることのできない皇。


「う…っ!」


「颯太!!!」


三重に重なった声が名を呼ぶ。
< 133 / 160 >

この作品をシェア

pagetop