アカイトリ
その日は本邸へ泊まることになり、凪は「屋根の上に居る」と言い、消えて行った。


颯太は隼人らと久々の団欒に花が咲き、天花は「辺りを散策してくる」と颯太に伝え、恐ろしく広い庭園をひとり歩いていた。


…近いうちに現れる人との融和を望む颯太。

そう望むのならば叶えてはやりたいが、神の剣は我々にとって命取りになる。

わずかなかすり傷でもそれは致命傷に成り兼ねない脅威の剣なのだ。


それを手に迫られれば、本気で戦わざるを得ない。

颯太が…

碧い鳥が愛した人間と。


――天花の中でも人はまだ完全に善の存在ではなく、かすかに触れた心と心は徐々にわだかまりを解かすけれど、まだ時間が必要なのだ。


―裸足のまま、よく整えられたやわらかい草を踏み分け、感触を楽しんでいると、何かに呼ばれた気がした。


天花は振り返った。

夕暮れの時、呼ばれた気がした方向を見ると、人になった碧い鳥――葵が縁側に座り、長身の、葵に引けを取らず穏やかな微笑を浮かべた美しい青年がひざ枕をされていた。


葵は何度も何度も須王のやわらかい薄茶色の髪を撫で、心の底から幸せそうに自らの腹を愛おしそうに撫でていた。


やがて生まれてくる我が子の誕生を、穏やかな時の中で最愛の“つがい”と待ち続ける。


「これは幻だ…」


そう呟くと、幻であるはずの葵が顔を上げた。

思わずどきりとなった天花は後ずさった。

そんな天花を葵が聖女の如く微笑みで、天花を指差した。


思わず指差された身体を見下ろす。


やや中心よりも下。

そこは――命が宿る場所。


「わたしだって…わたしだって、それを望みたい。颯太の愛を全身で受け入れ、颯太の子を孕みたい」


それが聞こえたかのように葵は微笑んだままに頷くと、膝の須王へ視線を戻した。


瞬く。


消えた。


「わたしだって…」


臍のやや下を押さえる。


孕みたい。


愛している颯太の子を。


禁忌だと言われようとも、孕みたい――
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