アカイトリ
「発情というと…」


「簡単に言うと、犬猫が盛りが来ると鳴いて回るだろ?あれさ」


部屋から遠ざかりながら凪は颯太の肩を抱いた。


「俺やお前には発情は来んが、純血種の神の鳥の発情の時期や回数は俺にもわからん。だが、あれは見境なく男を誘惑し、惑わすぞ」


――凪の言葉に、颯太の足が止まった。


「それは…危ないな」


「抑える方法ならなくもないが…夜になるが、やるか?」


「ああ頼む。ひとまず屋敷から出れないように封印を施しておく」


じゃあな、と言い、凪が屋根を身軽に伝って立ち去ると、颯太は蔵から結界の札を持ち出し、使用人に屋敷内へ均一に貼るように頼むと天花の部屋へ戻った。


だが天花は居なかった。


――暑さのせいもあってか馬がばて気味だったので、楓は馬に水をかけてやっていた。


かさり。


人の気配がしたので振り返ると、天花…あの憎き朱い鳥が立っている。

しかしどこか茫洋としている表情で、操り人形のような動作で近付いてきた。


「颯太様ならここには居ない」


「…欲しい」


呟いた言葉の意味がわからずに楓は眉を潜めた。


「何だ?」


「お前を、わたしにくれ」


天花は思い切り楓を押し倒した。

すぐに唇を重ねてきて、手を取られると豊かな胸に導かれる。


だが楓は女に興味がない。


興味があるのは颯太のことだけ。

――無関心そうにやわらかい感触を伝えてくる手を外すと、桶に汲まれていた水を天花の頭にばしゃりとかけた。


「本性は所詮獣か。滑稽だな」


いきなり水をかけられたことで天花は一瞬我を取り戻した。

全身ずぶ濡れの身体と楓を見比べる。

楓は口許を手の甲で拭いながら踵を返した。


「何のつもりか知らんが、去れ。お前の顔は極力見たくない」


「何だ…?わたしは一体何をした…!?」


――楓の姿が無性に愛しく映る。

抱きつきたい。

あの身体に触れて、そして――


「天花、部屋に戻るぞ」


やわらかく声をかけられ、振り返ると天花はまっしぐらに颯太に抱きついた。


「これは…閉じ込めるしかないな」


“あの部屋”へ。
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