アカイトリ
水紋が天花を中心に広がり、

髪から、

滑らかな顎の線から水滴が時間が止まっているかのようにゆっくり滴り落ちてゆく様を言葉もなく颯太は見つめていた。



魔性の生き物よ。


捕らえた時から、捕われていたのは…この俺の方だ…。



――なんだなんだと部屋から出て来る使用人たちに向かって颯太が大音上で一喝する。


「俺がいいというまで誰も部屋から出るな!」


主の命令に使用人たちが慌てて首を引っ込める。

颯太は金の髪を再びかきむしると、藍色の瞳にわずかな動揺を残しながら天花を叱った。


「何してるんだ?湯浴みがしたいならそう言え」


「…わたしの勝手だろう、好きにさせてくれ」


ぷいっとそっぽを向いた天花に腹立たしさを感じつつ、濡れることも厭わずに颯太も池へ入った。


「衆目がある。裸でうろつくなと言ったはずだぞ」


「誰にも迷惑はかけてない。わたしを束縛するな」


――束縛されない、大空を舞う永遠の鳥……


小さくため息をつくと、どこまでも軽い天花を抱き上げた。


「お仕置きしてやる」


目を丸くした天花を無視して自室へと抱いたまま運び込んだ。


少々乱暴に天花を下ろすと、かけてあった自分の浴衣を投げた。


「これでも着てろ。着ないと…ひどいぞ」


じんわりと颯太の本気を感じ取り、天花は黙ったまま袖を通した。

颯太はそれを確認しつつ、濡れた草色の浴衣を脱ぐ。


「全くお前は…人間は誘惑に弱いんだ。その辺もう少し自覚してだな…」


ぶつくさ説教しながら天花に視線をやると、はだけて露わになった胸元も隠さず、颯太の…心臓付近にある鉤爪の刻印をただただ見つめていた。


「…香りが、すごいな」


天花はくらりとしつつも、そこから視線を外さない。


あまりにも淫靡だ。


互いが、そう感じてしまっている。



わたしたちが出会ったのは…

宿命?

運命なのか?



――部屋に互いの香りが充満する。


天花は座り込み、颯太は膝を折って。天花の濡れた髪に口づけをした。
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