アカイトリ
「颯太様、朝餉の準備が調いましたよ」


そう話し掛けられ、颯太が顔を上げると、若干顔色の悪い蘭が膳を持って立っていた。


「ああ、すまないな。ここに置いてくれ。天気が良いからここで食うよ」


くだけた口調で話してくれる颯太に多少でも優越感が沸き、ちらりと天花を見ると…


この鳥と、目が合った。


…いや、気のせいかもしれない。


だが天花はぴょんと颯太の腹の上から下りると、いずこともなく歩み去って行く。


颯太はそれを見送ると、自分の隣をぽんぽんと叩いた。


「まぁ座れ。茶でも飲め」


好々爺のように急須を持ち、蘭に湯飲みを持たせると、蘭は苦笑いした。


「困ります。たかが使用人のあたしにこんな…」


言って顔を伏せていると、颯太からの反応がなかったので恐る恐る顔を上げると…


颯太が、きょとんとした顔をしていた。


「何だ、蘭。お前をただの使用人と思ったことは一度もないぞ?」


その意味深な発言に気が動転しそうになるのを何とかこらえると、思い切って聞いてみる。


「使用人じゃないなら…」


息を呑む蘭に対し、颯太は当たり前のことを聞くなと言わんばかりに茶をすすりながら言った。


「お前は、親友だ」


「…え…」


「喜べ。俺の数少ない親友に認定されたんだぞ」


…親友ということは、確実に恋人へと発展することは、ないだろう。


――顔を覆って泣き出してしまいそうになるのを必死に抑えて、蘭はなるべく自然に笑いかけた。


「ありがとうございます、そんな風に思って頂けて蘭は幸せです」


うん、と言って蘭に笑いかけると、颯太は膳に口をつけた。


抱いた女の数は多くとも…女の気持ちには詳しくないのね。


…内心文句を言いつつ、蘭は茶を颯太の隣ですすった。


今はこれが限界。


あの鳥が出て行けば、この人は再び誰のものでもなくなる。
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