アカイトリ
その日の夜明け前。


天花の世話を任された楓は部屋へと様子を見に行った。


おとなしく寝ている。


だが、矢傷が痛むのか、発熱して汗で全身が濡れていた。


そうだろうと踏んでいた楓は、すらりとした腕に持っていた替えの白い浴衣を置くと、天花を抱き上げた。


かくん、と首が後ろへ倒れて喉元があらわになる。


…噛み付きたい程に、美しい。


――女に興味のない自分でさえもそう感じてしまう。


だから、女好きの主である颯太が手を出さなかったことが驚かれる。


…楓は、あの時天花が思いきり剣をあてた首筋をもう一度見つめた。


傷ひとつ、ついていない。

確かにあの時刃が食い込んでいたのに…


不死の鳥。

自害は決して容易ではなく、また死さえも訪れることはない。


首を切ろうが腕を切ろうが、瞬時に再生してしまうと言われている。


楓は颯太の一族に長く仕えている家の者であるだけに、事情は知り得ていた。


汗ばんだ肌を冷たい水を含ませた布で拭いてやる。


…得も言われぬ、頭の芯にまで響く良い香りが身体から立ち上っている。


これが、人を惑わし、人を狂わす魔性の生き物――


…楓は、気付いた時には女が駄目だった。


かといって、男に反応するわけでもない。



ただ一人を除けば――。



端正な目許を歪ませて自嘲すると、替えた浴衣を持って楓は部屋を出た。


主があれに狂わされる前に、 あれの息の根を止めなければ。
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