アカイトリ
街の名は碧青(ヘキセイ)。


当時、街を救われた人々が、碧い鳥に心から敬愛の意を街の名としてこめることにより、街のあちこちには鳥の彫像が多数建造されている。


大洪水の後、碧青も全く被害がないわけではなかったが、一人の死者をも出すことはなかった。


この世界の半分以上が未だに水に浸かっているというのに。


碧青は奇跡の街。


颯太の家に伝わる始祖たちが遺した書物には全てが記されていた。


まず、文明…


特に、科学が完膚なきまでに破壊された。


人が、人の起源を知ろうとし、人は空を飛ぶ乗り物を発明し、高速で海上を移動する乗り物を発明した。


今、かろうじてこの世界に残っているのは、蒸気船と、人々の衣食住の文化のみ。

文明の発展の頂点にあった、人の起源を人が研究した成果や、何よりも…


人が人を造ろうとした、悪しき行い――


そして碧の裏切り。


全てが重なり、神はこの世界を一度滅ぼすことによって、全てを無に戻そうとしたのだろう。


だが神の鳥の数羽がこれに逆らい、人々の側に立ち、この碧青のように大洪水を免れた土地が幾つかある。


このような片田舎の街が助かったのは、科学や研究などとは全く縁のなかった、緑豊かで平和な街でもあったからだ。


ここで、この街で、始祖と碧い鳥が出会った――

――街の入口に立つ、一際大きな彫像に、天花は見とれていた。

鳥が、人間の男を大きな翼で包み込もうとしている像だ。

つがいとなる、儀式――

同じくその彫像を、始祖たちが遺した書物の内容を思い返しながら颯太が見つめていた。


なんという運命。


碧がこの街を守った。


そして、朱が現れた。


さらに、色はわからないが、神の鳥がこの街に居ることは確かなのだ。


「これは、碧か…」


「…そうだ。俺の始祖と、碧い鳥。墜とされてもなお、碧の気高さは神の鳥のものだったそうだ」


…知りたい。


あなたが何故、人の側に立ったのか。



――天花は暫く彫像の前から動かなかった。
< 70 / 160 >

この作品をシェア

pagetop