アカイトリ
暴れていた男たちを楓が鎮圧し、街から東の方向をずっと見ている颯太の元へ戻る。


「颯太様?」


「天花が…消えた……」


どこに居てもわかるのに、今はその香りが驚くべき速度で遠ざかっている。


「…先程まで、あの店にいたな」


それを思い出し、楓を引き連れて店の中に入り、若い娘の売り子を問い質した。


「ここに朱い髪と瞳の女が来なかったか?」


金の髪と、美貌を併せ持つ颯太にまっすぐ見つめられ、女が呆ける。

今度は楓が静かに問うた。


「その女と、若い男がここに来たはずだ。どこへ行った?」


颯太に次いで街の娘たちに恋い焦がれられている楓からも間近で話しかけられ、あわや失神寸前の売り子は、震える指先で路地裏を指す。


颯太がすまない、とはにかむ程度に笑いかけ、足早に路地裏へ向かうと――


鈴がひとつ、落ちていた。


拾い上げると、かすかに天花の移り香がした。


それに…


屋敷の前で香ったこの香り…


「…攫われたたのか」


同じ同朋なのに、この扱い…


静かに怒りが込み上げてくる。



「このようなことをせずとも…この俺の、一番大切な女をよくも…」



背後に控える楓を振り返り、なるべく落ち着いた声で命令する。


「馬を引いてきてくれ。天花の香りが残っているうちに追いかける」


無言で頷き、走り去った楓を見遣り、颯太は血が出るほどに唇を噛み締めた。


――痛い。


首のあたりがじんわりと痛む。


それに…颯太の香りがしない――


天花はゆっくりと朱い瞳を開いた。


薄暗い。


どうやら洞窟のようだ。

かつて自分も、このような場所で眠れぬ夜を過ごした――

洞窟ではあったが、奥の方らしく、しかも牢に鎖で繋がれている。


なんだ?

一体何が起きているんだ?


やはり同朋の香りがする。


松明だけが明かりの薄暗い辺りを見回す。


遠くで、魅了の声がした。



「起きたか、朱い鳥」



声のした方へ視線をやると…居た。


鳥の姿で。


漆黒の姿で――



「…黒い、鳥……」


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