アカイトリ

呪詛

楓が探していた凪は、すぐに見つかった。


人の姿で。

浅黒い肌…

漆黒の髪と瞳――


そして邪悪な雰囲気を纏ったまま、朱い鳥と対峙していた。


こちらに気付くと、軽々しく手を上げて親しげに言葉を交わしてきた。


「よう。碧い鳥の護衛」


「……」


だらりと両手を下げたまま、凪の領域に踏み込んだ。


ただならぬ楓の殺気に、凪が半歩下がる。

天花もまた、異常な楓の空気と動作に後ずさりをした。


「…死んでもらう」


「はあ?俺を殺す気か?普通の剣では死なんぞ俺は」


まだ両手を下げたままにさらに楓は前進した。


「やはりそうか。だが…瀕死にすることは可能だろう…?」


――殺気が充満する。

…これは面倒だ。


命を投げた攻撃の前には、半分が人である凪にとっても無傷では済まない。


一見、相打ち覚悟に見える楓の所作ではあるが、あれは一撃必殺の構えだ。


あれをくらえば、命は落とさずとも、傷を癒すのに時間を要する。


――それを見守っていた天花も、はじめて人が殺気を発した姿に身動きできないでいた。


「楓……」


静かな声が、楓の耳を震わせた。


「…颯太、様…?」


振り返った時、凪が一瞬身体を沈ませると屋根に飛び移る。


「お前とは戦わねえ。まあ俺は碧い鳥の末裔の命を奪うことはやめた。事の顛末はお前も聞いていたはずだ。天花、ではまた会いに来る」


言いたいことだけ伝え、翼もないのに軽々と屋根を飛び越えながら凪は去った。


拳をぎゅうっと握り、楓は颯太の部屋に上がり込む。


致命傷に見えた無惨な傷は、出血も止まって塞がりかけている。


藍色の切れ長の瞳が楓を映している。


「黒い鳥を…殺すんじゃないぞ…」


話す度に傷が痛むのか、言葉が途切れ途切れになる。


「どんなに邪悪でも、人の言葉がわかる以上は、我々の一族が伝えたいことは伝わるはずだ…。頼む、楓」


――つっと楓の頬に涙が伝う。


「颯太様…」


あなたは…優しすぎる――
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