アカイトリ
ずっとずっと、天花は鳥の姿に戻るまで颯太の傍を離れなかった。

外には楓が寝ずの番をしている。


碧が処方したという塗り薬は劇的な効果を発揮し、颯太の身体に斜めに走った傷を塞ぎはじめている。


――あの場にいた凪以外の全ての者に油断があった。


それほどに、我々神の鳥は人の目に触れることは少ないのだ。


…鋼のように鍛えられ、引き締まった颯太の身体。

痕は残るだろうが、命が助かったことが何よりの救いだった。


あの黒い鳥の子…凪は、天花と契約をした。


颯太の天命が尽きれば、あの黒い男と共に生きることになる。


「…死ぬ?本当にお前はあと十数年で死んでしまうのか…?」


天花は必死に考える。

死なない方法を。


「…う…っ?」


どくん、と体内が脈打った。

胸を押さえた時、身を引き裂かれるような激痛が身体を駆け巡る。


「来た…」


これが、一日人間になる引き換えに代償として訪れる、苦痛。


よろりと立ち上がり、壁にすがるようにして颯太から離れ、部屋を出る。

楓が一瞬視線をくれてきたが、何も見なかったかのように瞳を閉じた。


足どりすら覚束ない。


両手で身体を抱きしめ、体内の激痛と戦いながら天花は庭を渡り、自室へとたどり着いた。


障子を閉めた直後、朱い鳥の姿に戻った。


それでも激痛は続いてゆく。


――わたしは、後悔していない。

人になり、碧と颯太の始祖が守り抜いた街へ降りたこと。


人を嫌悪し続けたことが間違いではないのだろうかと気付かせてくれた颯太と出会えたこと。


きっと、全てに意味がある。


――天花は身体を丸める。

これは三日三晩続く痛み。

けれど、夜になれば颯太の元を訪れ、あの傷を癒さなければならない。


予断を許さない状況であることに変わりはないのだから。


――手が、足が、身体全てが痛む。


束縛していた鎖はもうない。


だが、ここから去る気はさらさらなかった。


なんとかやりすごして、夜を待とう。


颯太に会いたい。


そして、触ってほしい。
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