アカイトリ
粥を作り、颯太の部屋を訪れた蘭は、目覚めていた主に驚いて瞳を瞬かせる。


「何だ、蘭。入ってこい」


布団に寝かされてはいるが、昨晩より顔色はずっといい。


「颯太様…本当に心配しましたよ」


枕元に座り、粥を見せる。


「食べれますか?」


「ああ、食う。すまないが身体を起こしてくれないか?」


背中を支えてゆっくりと身体を起こしてやると、少しつらそうな表情を浮かべた。


「だ、大丈夫ですか?」


「ああ。すまんな」


至近距離で目が合い、蘭は昨晩の出来事を思い出して視線を外した。


「食べさせてくれ」


子供のように駄々をこね、顔を覗きこんでくる。


…この人は…


本当に、この顔の威力を知らないんだわ。


――それが憎くもあるが、憧れの存在である颯太とこのように親しく話せる立場を蘭は誇らしくも感じている。


「し、仕方ないですね…今日だけですよ」


少量をれんげに移し、熱さを冷ますために息を吹きかける様子を颯太がじっと見つめていた。


…顔が赤くなるのは何も熱さだけのせいではない。


「はい、口を開けて…」


言われるがままに美しい唇を開いた颯太に蘭はくぎづけになった。


この人と昨晩私は唇を重ねたんだ…


悩ましく、官能的な短い時間だった。


“誰か”と勘違いされようとも、あの時間は確かに二人だけのものだった。


「うん、美味い。お前が作った料理が一番だな」


「あ、ありがとうございます」


再び鳥の雛のように口を開ける。


至福の時。


だが、思い出したように颯太は蘭に問う。


「天花はどうした?」


…また、あの朱い鳥の心配…


「…さあ。昨晩からここには来てませんよ。薄情ですよね」


…嘘を、ついた――…

ふい、と視線をそらした蘭を見遣り、ふうん…と颯太は呟くと、蘭の肩をつつく。


「あれを取ってくれないか」


指差した先には何かの包み紙。


「開けてみろ」


言われ、開けると…桃色の、蝶をあしらった髪飾りが出てきた。


「遅くなったが誕生日おめでとう。それが壊れなくて本当によかった」


…颯太の笑顔がせつなく胸に響いた。
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