アカイトリ
傷は痛むが、この治りの早さはおかしい…


――浴衣が傷口と接触しないように半裸で寝かされていた颯太は、何とか身体を起こした。


もう夜だ。

「俺はどのくらい、眠っていたのだろうか…?」


すらり


障子が開き、昨日の朝ぶりの天花が幽玄のような顔をして起きている颯太を見る。


「起きていて大丈夫なのか?」


「ああ。受けた傷にしてはどうにも治りが早いのだが…」


疑問を口に乗せると、傍らに座り、胸の傷だけではなくあちこちの傷を検分し始める。


「天花?」


異常に、顔色が悪い。

真っ青になり、身体は細かく震えている。

颯太はそこで思い出した。


『三日三晩苦しむことになる』と告げた天花の言葉を。


「俺より、お前の方がつらそうだ」


腕に深くえぐれた剣の痕を見つけると、天花がおもむろに口に運び、傷口を舐める。


「天花…何を、している?」


「お前の胸の傷も昨晩こうやって治した。黙っていろ」


…昨晩、ここへ来た…

蘭の話では、ここには…


「ここに来たのか?」


問うと、目線だけよこしてきて頷く。


「一瞬席を外したが、大体はここにいた」


そして再び治療に専念する。


「…何だか…くすぐったいな」


ちろちろと傷口に舌先が這う感触。

何よりも、天花自身が今は苦痛に耐えている様子。


「やはりこの傷が一番厄介だ。寝ろ」


胸の無傷の部分を押され、半ば押し倒されるような格好になると、まずは左肩から斜めに裂けた傷口に舌を這わせた。


最初のうち、颯太もそれを眺めてはいたが…身体を這う舌の感触が、どうにも快感を誘う。


次第に舌は右の腰骨付近にまで及び、颯太は慌てた風情で天花を止めた。


「何だ?」


「何だ、だと?天花、それ以上下は…」


言葉を続けられないでいると、また天花が舌を這わせた。


ただでさえ、触りたくて仕方ないのに……


――両者の思いが重なる。


天花が自身の体内に走る痛みと、颯太の放つ甘い香りに、はあ、とせつないため息をついた。


途端、世界が反転して颯太に押し倒された。


深く濃い、濃密の夜――
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