もしも君が助けてくれたら
夏に連れて来られたのは、公園だった。

しかも、まったく人気のない公園。

その中心にポツリとあるブランコに夏は自然に座った。

まるでいつも一人でここにきているかのように。

俺も隣のブランコに座ると、夏がクスリと笑った。

柊に、似ていると思った。

「まさか本当に来るなんてね。あんたバカ?」

口はわりぃけどな。

俺はため息をつくと、夏がポケットから携帯を取り出した。

まるで一度も使っていなかったかのように汚れ一つなく綺麗だった。

「アドレス教えて。俺も教えるから」

今日初めてあった人に(しかも柊の弟に)アドレスを教えていいものか、と考えた挙げ句、俺は赤外線を繋いだ。

「あんたさ、姉ちゃんのこと、気になるんだろ?」

赤外線を繋いでいる間、夏が唐突に言ってきたもんだから俺は思わず夏を凝視した。

そんな俺にかまわず夏は呆気にとられるほどケロリと言った。

「だってこういう面倒事に首つっこむのって姉ちゃんのことが好きな奴だけだし。秀だってそうだし」

高田・・・?

そうか、そういえば、高田がみてたのって、柊だったな。

今日の屋上の景色が頭の中に広がった。

「でもさ、姉ちゃんハードル高いだろ」

赤外線が終了して、夏が電話帳に俺のアドレスを登録しながら呟いた。

柊が恋愛に興味がないって弟はちゃっかり知ってんだな。

俺も夏のアドレスを登録しながらうなずいた。

「・・・全然俺のこと気にしないからな・・・」

そうだ。

全然柊は俺のことみない。

でも俺は確かに柊に一目惚れした。

初めてだった。

あんなに綺麗だと思えた人がいるなんて・・・。

「けど、俺には、もう、誰かと付き合うことなんて出来ない」

ポツリと呟いた声が聞こえたのか聞こえなかったのかは分からなかったけど、夏がカチカチとメールを打ちながら俺をチラリとみた。

「あんたさ、俺のことどう思う?」

どうって・・・。

俺は夏をまじまじと改めてよくみてみる。

狩谷にそっくりな容姿にスラッとした体つき、声変わりしていない声が少し違和感を醸し出していた。

「すごく狩谷に似ている」

すると、夏がクスリと笑った。

「あんた素直だね。俺さ、自分がすっげぇ嫌いなんだよな」

手の中の携帯がミシミシと音をたてている。

いつか壊れるんじゃないかと不安になるくらい。
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