週末の薬指
その日、寂しさに気づかないように仕事に没頭した。普段なら後輩の女の子がするような細かい雑用も引き受けて、気持ちを不安に覆われないようにガードしていた。

単純に沖縄への出張なら心配しないけれど、美月梓の存在と、彼女との経緯を知っているから、不安をゼロにすることはできない。

そうなると、仕事に気持ちを集中させてしまうし、お昼を食べる事も忘れてしまいそうになる。

「ほら、行くよ」

弥生ちゃんが迎えに来てくれるまで、お昼休みに突入したことすら気付かなかった。

「ちゃんと食べて、瀬尾さんが帰ってくるのを待ってなさい。
今夜も付き合ってあげるよ。飲みでもカラオケでもなんでも来いよ。
せっかく花緒が愛する人を見つけたんだから、応援隊長に立候補。わかった?」

私のデスクの横に立って、ふふん、と笑う弥生ちゃんは、私に反論なんて絶対に許さない勢い。

その勢いに気圧されて黙り込む私の腕を引っ張って椅子から立ち上がらると、向かいにいるシュンペーに視線を移した。

キラリと光った瞳に嫌な予感。

「ほら、そこの若造も一緒におごってあげるよ。そんなしけた面してたら恋人に逃げられるに決まってるんだからね」

「ちょっと、弥生ちゃん、そんなはっきりと……」

「うーん。はっきり言っちゃだめなら、何も言えないね。シュンペーと彼女と赤ちゃんの人生かかってるのにオブラートに包む暇なんてないんだ。わかってる?」

「……わかってます。で、どうして認知すらさせてもらえないのか、もわかりました」
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